商社というビジネスモデルは日本特有のものと言われ、海外の投資家から理解されにくいと聞いたことがありますが、
今回は商社の中でも『総合商社の雄』である三菱商事について分析してみようと思います。
三菱商事(8058)の概要
総合商社と呼ばれる中でも日本No. 1の商社です。
拠点は世界に約90ヶ国、連結事業会社は約1,400社もあり、5,400億円もの純利益を創出しています。
三菱商事(8058)の事業セグメントは以下の10セグメントに分かれています。
- 天然ガスグループ
- 総合素材グループ
- 石油・化学グループ
- 金属資源グループ
- 産業インフラグループ
- 自動車・モビリティグループ
- 食品産業グループ
- コンシューマー産業グループ
- 電力ソリューショングループ
- 複合都市開発グループ
それぞれの詳細は下記のようになっています。
- 天然ガスグループ
アジアや北米で天然ガスやLNGなどのエネルギー資源を扱っている事業グループです。
LNGの新規プロジェクト開発やLNG船事業なども行っています。
2020年度の売上総利益は209億円、利益は703億円となっています。
- 総合素材グループ
自動車や建設、インフラなどの業界において炭素原料や鉄鋼製品、セメントなど多岐にわたる素材の流通や事業開発を行っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は1,400億円、利益は261億円となっています。
- 石油・化学グループ
原油やプラスチック、エタノールなどのトレーディングや製品自体の製造を担っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は606億円、利益は▲120億円となっています。
- 金属資源グループ
原料炭や銅を中核商材として扱っており、金属資源への投資や鉱山の開発、金属資源のトレーディングなどを行っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は2,386億円、利益は2,123億円となっています。
- 産業インフラグループ
プラント運営、建設機械レンタル事業から船舶の運営、衛星画像データまで幅広い産業分野にてサービスを提供している事業グループです。
2020年度の売上総利益は944億円、利益は414億円となっています。
- 自動車・モビリティグループ
三菱自動車、いすゞ自動車などに代表される自動車製品の販売、リース、輸出などを行っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は1,295億円、利益は196億円となっています。
- 食品産業グループ
医薬品原料や農業原料、トウモロコシなどの穀物、水産物、加工食品などまで幅広い商材を扱っています。
食品産業に関わる原料調達から製造など、川上から川下までを一貫して担っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は2,550億円、利益は532億円となっています。
- コンシューマー産業グループ
アパレル商材や医療機器商品の提供、タイヤの製造などを担っている事業グループです。
ローソンの運営を行っているのもこの事業グループに所属しています。
2020年度の売上総利益は7,630億円、利益は227億円となっています。
- 電力ソリューショングループ
海外における発電・送電事業やリチウムイオン電池の製造事業、オランダの総合エネルギー会社『Eneco』の成長支援などをしている事業グループです。
2020年度の売上総利益は411億円、利益は515億円となっています。
- 複合都市開発グループ
鉄道や空港などの社会インフラの開発、商業施設の運営や不動産開発などを担っている事業グループです。
2020年度の売上総利益は382億円、利益は343億円となっています。
ビジネスモデルとしては、様々な商材をトレードして利鞘を稼ぎ、事業投資を行い収益を拡大していますが、多くの総合商社と同様に事業投資の良し悪しで業績が大きく変化すると言えそうです。
三菱商事(8058)の業績推移と業績分析
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業績推移
まずは、過去の業績を横並びにしてみました。
参考:三菱商事 IRライブラリー を元に管理人作成
2013年3月期からIFASに移行しており、単純な比較はできませんが、純利益は長期的に順調に伸びていることが分かります。
注目すべき点は2016年3月期に1,500億円の最終赤字になっていますが、これは創業以来初めての赤字だということです。
商社は資源価格の影響で収益が大きく変化しますが、ほとんど赤字決算になっていないのは、三菱商事のリスク管理が優れているからなのではないかと予測できます。
また、2018年からの新経営戦略では、資源分野ではなく非資源分野でのポートフォリオの多角化を目指しており、リスク分散をより進展させていると言えそうです。
次に、事業グループ毎の売上総利益を見ていきます。
参考:三菱商事 IRライブラリー を元に管理人作成
参考:三菱商事 IRライブラリー を元に管理人作成
売上の40%がコンシューマー産業グループ、14%が食品産業グループからのもので、toC向けの一般消費財や食品などで安定的な売上総利益を確保できていると判断して良さそうです。
また、事業セグメント毎の利益は以下のようになっています。
参考:三菱商事 IRライブラリー を元に管理人作成
参考:三菱商事 IRライブラリー を元に管理人作成
利益の40%以上が金属資源グループ、15%が天然ガスグループからの利益となっており、資源エネルギー市況により大きく業績が変動していくことが予想できます。
ただ、三菱商事(8058)は現在まで赤字決算を組んだことが1度しかありません。
したがって、市況のリスクヘッジが社内でできていると想定できある程度の相場変動であれば安定して利益確保をしてくれそうな期待もあります。
記載していませんが、PERは総じて10〜12倍程度で日本市場の平均PERよりは低めです。
商社はPBRが低めになることが多いですが、三菱商事もこの例に漏れていません。
※商社のビジネスモデルに占める投資事業が大きいため、低PBRはこの事業リスクが加味された結果と言われています
三菱商事(8058)の株価予想
これまでの10年間の業績推移をもとに三菱商事の業績を予想してみます。
まずは現在までの10年間の数値をまとめてみます。
※株価は2020年5月13日時点の終値(2,368円)を用いています。
現在までの業績を100%反映しているのが【妥当】で、【妥当】×80%したものが【保守的】の数値になっています。
平均ROEは9%弱となっており、まずまずの効率性を確保できています。
突出しているのは平均EPS成長率で、大企業であるにも関わらず7.2%とかなり高い成長率を誇っています。
PERも7倍程度となっており、卸売業としては一般的な株価水準と言えそうです。
三菱商事の幅広い事業ポートフォリオや非資源分野への注力、これまでもほとんど赤字を出したことがないリスク管理能力を加味すると、現在までの成長率を維持したまま、今後も成長を続けることは可能なように思えます。
これらのEPS成長率、現在の配当金などが今後も維持・成長するという前提を元に株価予想と収益予測を行うと下記のようになります。
現在から8年後まで投資を継続した場合、【妥当】レベルで投資収益率が184.6%、【保守的】レベルでも109.0%の投資利回りが達成されるという予測ができました。
※株価は2020年5月13日時点の終値(2,368円)を用いています。
この予測株価におけるPBRは【妥当】レベルで0.9倍と少し高い一方、【保守的】レベルで0.7倍と実勢に近くなりました。
【保守的】レベルのPBR0.7倍は実勢に近くこの数値を基準にすると、今までの成長率が維持できれば、8年後に株価は3,870円くらいにはなりそうと言えそうです。
結論
三菱商事(8058)は魅力的な安定銘柄、ただしエネルギー市況には注意が必要
三菱商事はNo.1総合商社として世界中にネットワークを広げ、幅広くビジネスを行っています。
業績も順調に推移しており、ROEも9%弱で株価水準も割安なことから投資対象としては魅力的で、8年後のトータルリターンで180%超えが実現できる可能性もあるという結論に至りました。
特に、三菱商事の強みとして挙げられるのは『リスク管理ができる仕組みが優れていると思われること』です。
現在までで赤字決算が2015年度3月期のみという事実は、三菱商事のリスク管理が極めて優れていることを示していると思います。
このような優れたリスク管理システムなどを運用する人材も絶対的に必要ですが、同社は就活人気ランキング上位に常にランクインしていることを考えると、新卒・中途問わず優秀な人材が集まりやすく、今後も安定した事業運営をしていけるのではないかと思われます。
ただし、三菱商事(8058)の事業ポートフォリオは金属資源やエネルギーグループの寄与率が非常に高いです。
リスク管理が優れていると言っても完璧ではないはずなので、資源市況の変動により大きな減損損失を計上する可能性があります。
投資対象としてはビジネスも堅調な上に比較的割安で魅力的ですが、エネルギー・資源市況に注意して投資をすべき対象と言えそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
三菱商事は強固な事業ポートフォリオや適切なリスク管理のシステムを持っていそうな優良企業と考えられます。
商社はリスクを加味されてPBRが低めなことが多いですが、特に三菱商事のようにリスク管理機能が高いと思われる商社は、相対的には割安と判断できます。
また、平均EPS成長率も7%超と非常に高く、今後も同様の成長率を維持できるのであればかなり魅力的な銘柄と言えそうです。
とは言え、三菱商事を含め商社の業績は資源の市況に大きく左右されるので、投資の際には資源市況を注視しながら投資をするべきでしょう。
どのような企業に投資をする際にも、今回のような分析は必須です。
今回は簡単な業績分析から株価を予測してみましたが、管理人が財務分析などの定量分析をする際は下記のような方法で行なっています。
また、今回は定性分析は行なっていませんが、定性分析をする際はこのような手法で行うことが多いです。
>> 企業の定性分析 〜定性分析の手法:3つのフレームワークで分析してみる〜
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