ビジネスを創造する上で、”いかに模倣から守るか?”は非常に重要な課題です。
開発にコストがかかるほど、その開発コストをかけずに実現できてしまう後発参入者の方が有利になってしまいます。
そういった点からも知的財産権は法律で保護されています。
知的財産権の種類
知的財産権は、主に以下の5つがあります。このうち、前者の4つは産業財産権と言われます
- 特許権 発明の保護
- 実用新案権 考案の保護
- 意匠権 意匠・デザインの保護
- 商標権 商標・マークの保護
- 著作権 著作物の保護
それぞれの違い(発明とは?考案とは?)
まず自分の保護したいものは、何の権利で保護することが出来るのか?を判断する必要があります。それぞれについて以下の通りにまとめてみました。
発明
発明は特許法において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されています。
また発明には「物の発明」「物を生産する方法の発明」「物の生産を伴わない方法の発明」の3種類があります。「物の発明」には機械・器具・医薬・化学物質だけでなく、コンピュータプログラムも含まれます。(方法の発明が”物の生産”を伴うか否かで2分されるのは、生産された物にまで特許の効力が及ぶか否かが変わるからです。)
発明は完成させることで「特許を受ける権利」が発生し、「特許を受ける権利」がなければ出願は拒絶されます。
「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」とは?
<自然法則を利用とは?>
たとえばゲームのルールや勉強法・ダイエット法などは自然法則ではないため、発明にはなりません。またエネルギー保存の法則の様な自然法則自体も発明にはなりません。
<技術的思想とは?>
技術的思想とは、”実際に利用でき、知識として客観的に伝達できるもの思想”であることです。例えばプロレスの技の様なものは個人の熟練によって得られる技能であるため、技術とも違います。
<創作とは?>
また創作とは、新しい物を創り出すことです。既存のモノを見つけただけでは”発見”であり、それらとは区別されます。例えば、新しい鉱石の発見や、新たな自然法則の発見等も、創作にはあてはまりません。
<高度とは?>
上記に加えて高度な物である必要があります。高度かどうかについては明確な定義はなく主観によります。しかし、後に述べる特許要件の”進歩性”を満たしていることが、実質的に”高度である”と言えます。
発明が特許を受けるための特許要件
そして、この発明が特許を受けるためには以下の”特許要件”を満たしている必要があります。
1.産業上の利用可能性があること
理論的には可能でも実現できないものや、個人的に・学術的にのみ利用されるものは不可となります。
2.新規性があること
公然と知られた発明や、公然と実施された発明、メディア等に掲載されて公衆に利用可能となった発明は原則不可です。なので”特許出願時”に、それらの条件に当てはまらない必要があります。
例えば発明と同時にブログやSNSで発明の内容を公表してしまうと、その時点で新規性は喪失されます。ただし、新規性喪失の例外規定というものが存在し特定の条件下では、新規性が喪失していても特許を受ける事が可能になります。
<例外規定の要件>
①特許を受ける権利を有する本人の行為による公知・公用・刊行物への記載
②特許を受ける権利を有する本人の意に反する公知・公用・刊行物への記載
①の場合は公表から1年以内に例外規定の適用を受けたい旨の書面を特許出願と同時に提出し、出願日から30日以内に公表などの事実を証明する書面を提出することで、特許を受けることが出来ます。②の場合も書面・証明書の提出は不要ですが、1年以内に行う必要があります。
3.進歩性がある事
”進歩性”とは「出願時の技術水準から容易に発明をすることが出来ない困難性があること」です。公知技術の寄せ集めや、他の技術を転用しただけ等、その分野の技術者が効果を容易に予測できる場合には発明とはなりません。
4.先願の発明であること
同一の発明について、複数の出願がされた場合、最初に出願した者に特許権は付与されます。同一の日に二人以上の特許出願があった場合、時間の前後ではなく、特許出願人の協議によって定めた出願人だけが特許を受けることが出来ます。(協議の結果、数人が共同して特許出願、という形になることもある。)協議が成立しなかった場合、誰も特許を受ける事は出来ません。
5.反社会的でないこと
公序良俗、公衆衛生を害する恐れのある発明は、特許を受けることができません。
考案
実用新案法は、「物品の形状、構造または組み合わせに係る考案の保護、及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的とする制度です。
考案の定義は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。定義上は発明とほぼ同じで、発明の高度でないもの考案と考えて良いです。しかし、実用新案権の対象となる範囲は発明とは異なり、「物品の形状・構造・組み合わせ」に限られています。そのため、特許では対象となっていた”方法”や”プログラム”は保護対象にはなりません。
実用新案権の登録要件
実用新案権の要件も、特許と同じく「産業上の利用可能性」「新規性」「進歩性」「反社会的でない」「先願である」ことが必要です。しかし高度である必要は無いため「進歩性」については、程度がある程度低くても認められます。
*ちなみに特許権とは違い、同一の考案で同日に出願があった場合は誰も登録が出来ない、となっています。
意匠
意匠法は、意匠の保護および利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与する事を目的としています。
意匠とは「物品の形状、模様、もしくは色彩もしくはこれらの結合、建築物の形状等または画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」を言います。ただし、その中でも意匠法の保護対象は、量産可能な物品のデザインのみとなります。
(工業的に量産できないものは意匠権の対象とはなりませんが、著作権の対象には出来る可能性があります)
意匠権の登録要件
1.工業上の利用可能性がある
産業ではなく、工業であるのは、すなわち反復して量産できることが必要となります。
2.新規性がある
3.創作性がある
国内外の周知のモチーフに基づいて当業者が容易に創作できないこと。(つまり〇〇をモチーフにした場合は創作にはなりません)
4.先願である
二人以上が同日だった場合は協議で1人だけに絞られるor誰も受けられない
5.不登録事由に該当しない
公序良俗・他人の業務との混同のおそれがある・物品の機能を確保するのに不可欠な形状
商標
商標法は「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する事」を目的とします。商標では他の産業財産権と違い”創作”は要件とならないため、商標を完成させた者に商標権を受ける権利が帰属するわけではありません。
商標の定義は「人の知覚によって認識することが出来るもののうち、文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、事業者が商品または、役務について業として使用するもの」となっています。
上記に基づき、商標には「文字商標」「図形商標」「記号商標」「立体商標(店頭に設置する立体人形等)」「色彩商標」「統合商標(文字や図形など2つ以上が統合した商標)」「音の商標」の種類があります。
①出所表示機能 自他識別力を有することで、一定の商品・役務が同一の事業者に由来するものであることを示す機能
②品質保証機能 品質が同一であることを示す機能
③宣伝広告機能 メディアを介して商品・役務の宣伝に役立つ
商標権の登録要件
1.一般的登録要件
ある事業者の商品・役務を他の事業者の商品・役務と識別する「自他商品・役務識別力」を持つこと。
普通名称や、慣用商標、普通に用いられる方法で表示する標章のみかならなる商標などは不可。(例えば椅子に「椅子」という商標をつける等は不可)
2.不登録事由
・公共の期間の標章と紛らわしいなど公共性に反する商標
・他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしい商標
のいずれかにあたる商標の登録は認められません。
また商標は先願主義ですが、”不使用取消審判”という制度があり、継続して3年以上日本国内にて使われていない登録商標の取消の審判を請求できる制度があり、いつでも・誰でも行う事が出来ます。
著作物
著作権法は、「絵画・音楽等の著作物やそれらに認められる権利・実演・レコード・放送等の隣接する権利を保護することで”文化の発展に寄与”すること」を目的にしています。なので前述の4つの産業の発展を目的とする産業財産権とは異なる性質を持っています。
著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」と定義されています。著作物は、小説・講演・音楽・美術・映画・コンピュータプログラム・データベース等多岐にわたります。ただし、コンピュータプログラムは著作物にはなりますが、プログラム言語やプロトコル・アルゴリズムはプログラムの著作物ではありません。
思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものとは?
<思想または感情>
人の思いや考えを表現する必要があり、単なるデータは対象にはなりません
<創作的>
他人の著作物と違った、著作者の個性が表現されたものである必要があります。
<表現したもの>
文字・演奏などで表現する必要があります
<文芸・学術・美術または音楽の範囲>
「文化の範囲に属する」ものでなければならないなので農作物や工業製品は対象にはなりません。また意匠法の保護対象である意匠は工業製品であるため、逆に著作物にはあたりません。
また著作権については産業財産権とは違い登録の必要が無く、創作と同時に発生します。
5つの知的財産権以外でも、守れる方法はあります:不正競争防止法
では、これらの5つのものに該当しなければ模倣から守ることが出来ないかというと、そうではありません。
不正競争防止法という法律があり、ここでは10類型の不正競争を定めています。そのうちの以下の4つに該当していれば、知的財産権に対応していなくても模倣から守ることが出来る可能性があります。
1.周知表記混同惹起行為
良く知られているものと同一・類似の商品表示をして、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(混同のおそれが生じる行為)を規制しています。
2.著名表示冒用行為
他人の著名な商品等表示と同一・類似する表示を規制しています。需要者に混同を生じさせてか否かは問わず、フリーライド(著名表示の顧客吸引力・財産的価値にただ乗りする)・ダイリューション(希少価値が薄められる)・ポリューション(イメージが汚染される)のいずれかにあたれば使用するだけでも規制対象となります。
3.商品形態模倣行為
他人の商品の形態を模倣した商品も譲渡等する行為が規制されます。ただし、日本国内で最初に販売された日から3年が保護される期間となります。(また模倣商品の善意かつ無重過失取得者は適用対象外となる)
4.営業秘密にかかる不正行為
窃取・詐欺・脅迫など不正な手段で営業秘密を取得・使用、または加害目的で営業秘密を使用する行為は規制されます。ただし、この保護を受けるためには、「秘密管理性(合法的かつ現実に接触できる従業員等からみて、秘密情報だと分かる程度に秘密管理措置がなされている)」「有用性(技術的情報事業活動に役立つもの)」「非公知性(保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態)」の3つの条件の全てを満たす必要があります。
これらをザックリまとめると、以下の場合であれば知的財産権とは別で対処することが可能になります。
・著名になった後であれば、混同 or フリーライド or ダイリューション or ポリューション のいずれかに当たれば商品等表示の模倣には対処できます。
・これから提供していくものの場合は、販売開始から3年間は保護出来ます。
・秘密の管理を徹底していれば、秘密が不当に漏れた時の模倣に対しても対処できます。
以上、いかがでしたでしょうか?特に新規ビジネスを始める上では、模倣対策は経営の根幹に関わるので非常に重要です。