株主優待とその権利
株に投資して株主になると、銘柄によっては定期的に”株主優待”といって、クオカードや商品券、その会社の商品等、様々なものが貰えることがあります。
そのためには権利確定日に株主である必要がありますが、逆に言ってしまえば「権利確定日だけ株主」であっても問題は無いのです。(ただし半年以上株主である、といった期間制限が別途ある場合もあるので注意。その様な株に対しては別で対処法がありますがその話は別途)
*詳細下図
こういった事情から、株主優待の権利確定日に株を買い、用済みになったら売ってしまうという取引方法があります。
しかし株主優待で貰える価値よりも、株価の変動の方が大きければ上記の取引では損をしてしまう可能性もあります。
株主優待前後での実際の株価の動き
では優待の権利確定日前に買って、権利確定日後に同じ価格で売れば(手数料無視すれば)タダで優待を獲得できるのでは??
と思うかもしれません。しかし権利確定日後に同じ価格で売る事は難しく、権利確定日以前よりも値下がりする傾向にあります。なぜなら、株の買い手にとっては優待が貰えない分だけ価値が低いからです。
*株主優待時と価格変化の図。(配当分については省略)
では実際に株主優待の前後で株価がどの様に変動しているかを調べて見ます。
ここでは7月に株主優待の権利確定日がある東証一部上場のシーアールイー(3458)を例に見てみます。
この企業では毎年2回、株主優待のタイミングがあり、それぞれ1月と7月にあります。
そして2020年の7月の株主優待では、100株以上の株主が1000円相当のクオカードを貰う事が出来るようになっていました。(株主期間の期間制限なし)
7月は7/29が権利付最終日となります。
その前後の価格の動きは次のようになっていました。
2020/7/29の株価は1532~1525円。
2020/7/30の株価は1427~1482円。
つまり株主優待の権利確定の前後で株価は105~43円の下落が生じています。つまり、100株あたりで言えば10500~4300円と大きく値下がりをしていました。
ちなみに株主優待と同じタイミングで配当権利のタイミングが決定する場合も多く、このタイミングでは配当も絡んでいたため大きく下落したと推察されます。配当の予想は1株当たり22円となっていました。
実際に売買した時の推移の例(1525円で100株買い、1482円で100株売ったパターン)
上記を踏まえ、この株を最も良い条件で権利確定日に購入し、翌日に即売却で取引していた場合、損益はどの様になっていたか考えてみましょう。
この時、株価の値下がりで4300円のロスとなりますが、配当権利によって22×100=2200円の獲得、またクオカード1000円分の獲得となるので3200円を獲得、しかし全体では1300円のロスとなります。この上、実際には取引の手数料がかかります。SBI証券スタンダードプランの場合、20万円以内なので115円が2回かかります。取引全体では、1530円のロスとなります。
こんな風に、優待と配当の権利を手に入れても、損失が生じる場合があるのです。
値下がりリスクを避けるクロス取引
そこで、値下がりをするリスクを避けて株主優待を得られる方法「クロス取引(つなぎ取引などとも言います)」があります。
クロス取引は「現物買い」と「信用売り」の注文を同時に、同価格で発注する取引を行うことです。
ざっくり言うと同じ価格でその株を「買う」注文と「売る」約束をするようなもので、この方法を行うことで、優待獲得後に、購入時と同じ価格で売る事が可能となります。
具体的な取引方法としては、例えば権利確定日の寄付前に、「成行」で「現物買い」と「一般信用売り」の注文を出します。そして、権利確定日の15時まで継続保有すれば株主優待の権利を獲得できます。そして権利付最終日の翌日以降、現渡(「現物買い」と「一般信用売り」を相殺すること)にて返済することで取引が完了します。
クロス取引を活用するとどうなるのか?
それではこの時、クロス取引を活用できていた場合、損益はどの様になったのでしょうか?
SBI証券の手数料等を当てはめてみると以下の様になります。
発生する手数料は、まず現物買いの際に20万以内なので115円、「一般信用売り」の際に20万円以内なので148円、また信用売りの場合は取引手数料とは別で貸株料という別途費用が発生します。貸株料は短期で年率3.9%、権利確定日に購入して、翌日に売却すれば2日なので仮に株価1525円で購入していたとすると、1525×100×3.9%×2÷365≒34円。現渡しの際には手数料が発生しないので、以上が手数料になります。
つまり、この場合の手数料は297円となり、クロス取引しない場合より多くなります。
しかし売却価格が購入価格と同じなので、それ以上のマイナスがありません。
よってクロス取引をしていれば297円の手数料を支払って1000円分のクオカードを貰うので703円のプラスとなります。
クロス取引配当の扱い
クロス取引では”配当”が生じる場合もあります。しかしクロス取引では、”現物で買っているもの”については配当を受取る権利があるのですが、”信用売り”の分については配当に相当する分を逆に支払う必要があります。
それゆえ、例の場合でも2200円の配当を支払って受取る事になるので、配当に関しては±ゼロになります。
ただし、配当分については(後で戻ってくるのですが)一時的に少しお金が減ります。
というのも税金が関係し、受取る配当については源泉徴収として約20%が引かれるのですが、払う分については100%を払わないといけないため、配当額の20%分を支払うことになります。この場合、2200円が予想配当額だったので、2200円×20%=440円 が税金として引かれる分となります。
しかし、それはあくまで一時的なものでこの440円分は返ってきます。この440円は”支払い過ぎた税金”となるため、特定口座や確定申告等を通じて最終的には調整され、戻ってきます。
なので、クロス取引をすると一時的に上記の仕組み上、配当に関する部分がお金が減ることはありますが、結果配当は±ゼロ考えてよいでしょう。
クロス取引の注意点①在庫
この様にクロス取引を行えば、理論上はかなりお得に株主優待を得ることが出来ると分かります。
しかし、誰でもこんなお得なクロス取引が出来るかというと、決してそうではありません。
それは”信用売りの在庫の数”が関係しています。信用売りを出来る上限が決まっているのです。
なのでお得なクロス取引を行うために、必然的に競争が生まれます。
基本的には速いもの勝ちですが、在庫は不定期に追加で供給されることもあります。
2日前は在庫が無かったのに1日前に在庫が出来るといったパターンもあります。
クロス取引の注意点②注文タイミング
もう一点、注文タイミングも重要です。これは貸株料と先ほど述べた在庫も関係します。
SBI証券では15日営業日前から可能になります。しかしこの時、6日間の土日祝日も含んでいるとすると実質21日間、翌日に売却するにしても22日分の貸株料が必要となります。
とすると貸株料は34円⇒359円、手数料Totalは622円となり、1000円のクオカードを貰えるとTotalで+378円となります。
さらに渋くなってきましたね笑。株の保有期間によって貸株料が増えるため、元々優待の価値が少ないものだと、むしろマイナスになってしまう場合もあります。特に500円位の優待だとかなり厳しいです。
では権利確定日ギリギリに買えば貸株料も安くなるのでよいのでは?と思うかもしれません。しかし、タイミングが遅いと①で述べた問題、在庫が無い、という状況で結局人気の銘柄は買えないことが多いので中々難しいのです。
クロス取引実施時の手数料等見積ツール
このあたりの相場を踏まえると1000円以上稼ごうと思ったら、優待は2000円位は価値があるものじゃないと、時間かけてやってもせいぜい数百円の利益にとどまってしまいますね。
SBI証券スタンダードコースの方向けですが、株価・残り期間・優待価値を入力して事前に試算出来るExcelツールを製作したのでよかったらどうぞご活用下さい。以下からダウンロード可能となっています。
クロス取引計算エクセル
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